ゴースト・イン・ザ・シェル/GHOST IN THE SHELL
“project 2571”
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第3次、第4次大戦を経た21世紀の日本で、サイボーグや電脳が普及した社会の中
多岐に渡る犯罪を防ぐために活躍する内務省直属の攻性公安警察組織
「公安9課」(通称「攻殻機動隊」)に所属する少佐と謎のハッカーを巡る物語…
映画『攻殻機動隊』より
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ストーリーや設定はともかくとして、映像だけでも、観る価値のある映画。
映画『攻殻機動隊』『イノセンス』、SAC、2ndGIGをすべて観ているのなら
映画館の大きいスクリーンで、あの映像だけでも、観ておくことに損はない。
映画『攻殻機動隊』『イノセンス』、SAC、2ndGIGの映像、人物、ギミックを
これでもかと詰め込んでいて、映像においては、高い再現性があった。
再現性の高さに、三回くらいは、鳥肌がたった気がする。
ただ、だからといって、この映画が大ヒットするか、原作を一つも知らない人が観て
面白いと言ってもらえるのかと言ったら、それはまったく別の話しではあるけど。
今回は、あくまでも原作、映画、TVシリーズもしくはそのどれかを
観たことがあるということを前提に、感想を書いていく。
原作やTVシリーズを知らない人に向けては、最後に書いているので、原作見たことないけど
映画気になるよ…という方は、お手数ですが、下へスクロールしてください。
また、オリジナルとほんの少しでも、ストーリーやキャラ設定、背景が違うと許せないな!という人は、怒り心頭な場面も結構あるので、精神衛生上、観に行かないほうが良い。
例えば、アウトレイジ化して敵に銃弾をブチ込む荒巻さん。変な和服を改造したような衣服を着た荒巻さん。電脳化している荒巻さん。フローターがなくても海面に浮上できる少佐。義体化の成功第一号の少佐。義眼ではないバトー。ジャッキー・チェン化したトグサ(見た目)。
などなど、細かいところで違いが目に付く。
少佐が夜の海でダイビングするシーンは、フローターを装備して潜って欲しかった。
チタンの頭蓋骨に体の殆どが義体の少佐は、本来であれば、装備なしで海に入ったら
沈んで死ぬだけなのだ…その設定が、とても好きなので。
超個人的な好みの話ではあるけど、できれば、そこも再現して欲しかった。
そこを再現してくれたら、神映画としてレビューしても良かったくらいだ。
ただ、細かな設定の違いはあるものの最初にも言ったように
映画『攻殻機動隊』『イノセンス』の映像の再現性はとても高い。
監督は、きっと、何度も何度も映画を観ている人なのだろう。
そして、けっこうな額の制作費を投入しているのだろう
低予算の映画では、とてもあそこまではできまい…
また、再現する映像のチョイスも、なかなか良かった。
映画『攻殻機動隊』の冒頭で流れる、液層内で義体が製造されるシーンの再現。
ビルの屋上で、建物内部の人間達の会話を盗聴する少佐。
着ていた服を脱ぎ捨て、眼下に広がる夜の街にその身をダイブさせる少佐。
スーツケースに入った、偽装SMG(ステアTPM)らしきもの。
芸者ロボットが、接待していた客を襲う場面(SAC第一話)。
大きい窓を背景に、起き上がる少佐。
テロリストを追って、香港風の市街を走るシーン。
看板の前で、一人殺陣を演じるテロリスト。
少佐のダイビングに付き合うバトー。
イノセンスの夜の街並。
清掃車の哀れな清掃員。バセットハウンド。アヴァロン(…)。
特に、6課戦車との戦闘で、戦車のコマンダーズハッチを無理やりこじ開けた
少佐の筋肉が盛り上がって、腕がちぎれ飛ぶシーンには狂喜した。
この他にも、イノセンスに登場した、ハラウェイ検死官がモデルと思われる人物や。
芸者ロボットのギミックが、タイプ2052ハダリを思わせるものだったりと
あげたら切りがないくらいに、映画やTVシリーズから、色々な場面や人物を
切り取ってきて、つなぎ合わせたような映画になっていると行っても過言ではない。
ただ、映像の再現レベルは高いけど、高いクオリティで再現することに
力を入れすぎたのか、ストーリーの方はなんというか…とっても浅い。
映画の良い感じに攻殻っぽいシーンを切り取って、つなげて、映像を作って
それに合うように、もとの設定や人物を活かして、お話を書きましたという感じ。
映画やTVシリーズも、原作のちょっとした台詞などから、話を広げていったもので
「攻殻機動隊」という作品は、原作漫画・映画・TVシリーズで
それぞれ少しずつ設定が違うし、雰囲気がまったく異なる作品なので
この実写映画も、そんな作品の一つとして、ある意味、とても攻殻らしい作品といえば
攻殻らしい作品と言えるかもしれない。
この映画では、少佐は義体化に成功した第一号で、義体化前の過去の記憶を思い出せず
少佐は、本当に自分が人なのか、造られたものなのか、不安を抱きはじめる。
そんな中、現れた謎のハッカー。事件を追ううちに、ノイズかバグか
少佐の電脳に、実際にはない映像がチラツキ始める―――…という設定。
原作や、映画、TVシリーズをすべて観ている人なら、話の流れは簡単に読めるし
少佐の名前・人種が、原作と異なる理由にも、すぐに思い当たると思う。
それくらいには浅いし、大した捻りも、どんでん返しもないストーリー。
ネタバレ回避のため、あえて詳細は言わないけど、少佐の名前、人種が違うのは
押井守監督のインタビューも含めて、伏線になってたんだなぁ…と映画を観て気付いた。
『少佐の体は義体で、名前も偽名。本当の姿、名前は誰も知らない。
だから、入れ物である義体の見た目が違うことに大した意味はない』
といった感じのことを押井監督が、映画に関するインタビューで言っており
この映画の主題は、すべてこの言葉に集約されているのではないかと思う。
ストーリーが浅いからといって、この映画がつまらないかと言えば、否!
そうではなく、私はそれなりに映像もストーリーも、とても楽しめた。
一般公開されたら、また映像を堪能しに行こうかなと考えているし。
吹き替えの声優がオリジナルなので、吹き替え版もあわせて、あと2回は観に行く。
と、なんだか良いことばかりを書いているように、見えるかもしれないけど
だからと言って、不満が一つもない訳では決してない。
ビートたけし演じる荒巻さんの台詞が、上手く聞き取ることができず
仕方なく英語字幕を読んで、理解しなければならないシーンがあったり。
唐突に、桃井かおりさんが出てきて、急激に冷めてしまったり(違)
映像の再現性が高すぎたせいか、原作、映画、TVシリーズとは一切関係ない
この映画のオリジナル部分が、やけに浮いて、いっそ不自然とすら思えた。
監督の言わんとすることは、何となく分かるような気もするけど…
正直、せっかくの再現性の高さや、他の演出が、台無しとまではいかないけど
そこだけ突出して不自然と感じてしまったので、なんだか勿体無かった。
街で客引きする娼婦との絡みは、どうせなら「くるたん」にでもすれば良かった
そして、冒頭で書いた、「Project 2571」は、実写映画に出てくるキーワード。
原作を知っている人は、なぜ2501ではないのか…?と言う人もいるだろうけど
自分的には、これはこれで良かった。
「2501」は、人形使いプロジェクトのコード名であり、バトーと少佐が再開する時の合言葉だ。
私にとっても思い入れのある数字で、そう容易く使って欲しくないという気持ちもあった。
だから、実際、監督がどのような思惑で、2571を採用したのかは知らないけど
「2501」はオリジナルのものとして、大事にしてくれているのかと嬉しくなった。
実にちょろいファンである。
キャラについても触れると、一応、トグサ、サイトー、イシカワはいる。
トグサは、なんていうか、とってもトグサ感のあるトグサ(謎)。
トグサ可愛い!と言ってしまう。アニメシリーズのトグサ好きな人は、ごめんなさい。
そして、残念ながら「マテバでよければ」は出てきません。出番も少ないので…
まとめると個人的には、なかなか楽しめる良い娯楽作品だった。
原作、映画、TVシリーズを知っている人程、より楽しめる作品。
ストーリー、設定が、原作と異なるところも、少なくはないけど
監督が、原作を大切にしてくれていることが、映画の端々から伝わってくるので
そういった部分も、通常の実写映画程、気にはならないし。不快な気持ちもなかった。
原作等を知らない人が観ても、ある程度は、映像的な部分で楽しめるとは思う。
ただ、原作を知らないと、理解の及ばない所もあって、人によっては
で、結局のところゴーストってなに?となったり。
原作というか、「人形使い」「クゼ」のことや、その両者との少佐の関係性などを知らないと、台詞の意味が分かりにくかったり、展開が早過ぎたりして
ついて行くのが厳しいところもありそう。
そして、原作を知らないとストーリーの表面を追うことしかできないので
ちょっと勿体無い気もする。
だから、残念ではあるけど、いくら映像の再現性が高かろうと、大ヒットすることも
興行収入ランキング上位になることも、なさそうだなと予想してる。少なくとも日本では。
この実写映画を観たら、原作漫画、映画『攻殻機動隊』『イノセンス』、SAC
2ndGIが、良い意味で観たくなって、帰宅後に、一気にすべて見返してしまった。
私にとっては、そんなゴーストの囁く映画でした。
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